詩神と言われた文豪ゲーテの名著である、『若きウエルテルの悩み』を初めて読んだのは中学生の時でした。
この本と前後して読んでいたのが、谷崎純一郎の、『痴人の愛』だったので、両著の主人公の違いに驚き、未熟なる心に大いなる刺激を受けました。「肉体的愛」と「プラトニックな愛」を深く考えたのでした。
本日は、ゲーテの『若きウエルテルの悩み』について書かせていただきますね。
若きウエルテルの悩み「あらすじ」
「若きウエルテルの悩み」は、ゲーテの実体験とフィクションから成り立っています。ここでは、作品の内容に沿ってあらすじを書きたいと思います。
シャルロッテとの出逢い
青年ウエルテルは、叔母と母との金銭トラブルを解決するために,ある街に滞在します。そしてその街で、シャルロッテと言う名の、若く魅力的な女性と知り合います。シャルロッテは両親が既に亡くなり、6人の弟妹達の面倒を見ていました。
ウエルテルは、そんな彼女の献身さと優しい心に深く魅かれます。次第に彼女に恋心を抱くようになります。
婚約者アルベルトの存在
シャルロッテもウエルテルの聡明さと詩的精神に魅かれ、二人は相思相愛のように見えます。けれども、シャルロッテにはアルベルトと言う婚約者がいました。
アルベルトは誰が見ても、非の打ち所のない好青年で、ウエルテルはシャルロッテにふさわしい人物だと思います。そこでウエルテルは、苦しみぬいた末、この街を去ります。
新たな地での暮らし
ウエルテルは別の地で職を得て暮らしはじめます。しかし、ウエルテルは上司との関係がうまく行かず悩みます。暫くは我慢したのですが、ついに耐えきれなくなって仕事を辞めてしまいます。
仕事を辞めた理由はそれだけではありません。ある貴族の屋敷で開かれた集会に参加した時、他の客から身分の低さを軽蔑の眼差しで見られたことと、アルベルトとシャルロッテの結婚が、自分には知らされずに挙行された、という複合的要因が彼の仕事を辞めた原因だったのです。
湧き上るシャルロッテへの思い
ウエルテルは傷つき悩みます。湧き上るシャルロッテへの思いを抑えきれずに、再度彼女が住む街へ行きます。そして、足しげく彼女の元を訪ねます。アルベルトはいやが上にも、ウエルテルのシャルロッテへの好意を感ぜずにはおられなかったのです。
二人は共に当惑し、ウエルテルへの対処に悩みます。ウエルテルも精神的に大きなダメージを受け、益々悩みが深くなります。そしてとうとう、自ら命を絶ってしまいます。
これが、この本の、おおよそのあらすじです。読んでみたい、という方が一人でもいらっしゃれば嬉しいです。
若きウエルテルの悩み読後感と主人公の心を見る
ウエルテルが悩んだシャルロッテへの恋心は、身も心も焼き尽くすほどの熱情ではなく、淡い憧れが基盤となった爽やかな五月の風にも似た恋心だったと思います。
世間知らずな若者が抱く、聡明かつ献身的な愛にあふれた美しい女性への思慕の念は、生活を共にして暮らす、という現実から遠いところにありました。
故に、会話を交わし笑いあっても、シャルロッテの心をつかむことはできなかったのです。
3人の登場人物
この小説は、ウエルテルが親友に送った書簡の形を取っています。登場人物も少なく、ウエルテルとシャルロッテ、そして夫となるアルベルトだけです。
心の動きが見えるのは手紙を書くウエルテルのみです。他の人物の心の動きは、彼の筆記の中から推察するしかありません。
恋に恋する
シャルロッテが好ましいと思ったウエルテルの詩的精神は、恋に恋すると言う妄想を彼に植え付けてしまいます。故に、彼は自分で自分を追い込んでしまい、自死することになってしまったのだと思います。
実際問題として、6人もの弟妹を抱えたシャルロッテを支えることができるのは、彼女のすべてを受け入れているアルベルトをおいて他にはいません。
ウエルテルの詩的な心では、生活を持続させることはできません。
19歳の思い出「野ばら」
若い頃に書かれたこの小説から見えてくるのは、ゲーテが後に成す様々な偉業の発端と言えます。
ゲーテは、19歳の時、官吏であった父親の赴任先へ一緒に行きます。そこで美しい牧師の娘と知り合います。いずれはこの地を去る、という前提があるにもかかわらず、ゲーテは彼女を自分のものにしました。そして彼の地を去ります。
ゲーテは晩年になって、自分が無責任な行動をした19歳の時のことを思い出して、「野ばら」を書きます。
彼が後悔した思いがその詩に凝縮されています。今も歌い継がれている「野ばら」には、大勢の作曲家がメロディーをつくり、今ではその数が200に届こうとしています。
まとめ
ゲーテは自分より身分の低い者に優しい眼差しを注ぎました。
そして、詩的精神を大事にして、数々の作品を世に出し続けました。それらは今も、我々の規範となっているものが多いです。
是非、なにかの機会に、ゲーテの作品にふれていただけたらと思います。
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