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【読書感想文】森鴎外『最後の一句』あらすじと感想、いちの健気な思い

公開日: : 最終更新日:2015/06/21 ★年間を通して, 読書


本

夏といえば、読書感想文の季節ですね。みんな苦手な想いをもちながらも、一つの機会として、これまでに読んだことのなかった作品を手に取ってみたり、これまで興味のなかった本なども、なにかの紹介で読んだりすることもあるのではないでしょうか。

最近、小学校の高学年の時に読んだ、森鴎外の『最後の一句を読み直しました。小学生の時に読んだ感想と、現在読んだ感想には大きな違いがあります。年齢を重ねたことで、これほど違いがあるのかと少々驚いています。

この作品の原作は太田蜀山人の随筆です。森鴎外によって書き加えられた一言がこの作品の質を高めています。実際に読んでみると、みなさんはどんな感想をもつのでしょうか。

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森鴎外作、『最後の一句』あらすじ

『最後の一句』は1915年10月に『中央公論』に発表された、森鴎外の作品です。まずは、全体のあらすじの確認をしていきますね。

太郎兵衛を襲う悲劇、船の難破と、船乗りの裏切り

お話の舞台は江戸時代の大阪です。その地で海運業を営んでいた、桂屋太郎兵衛は、新七という船乗りを雇って、秋田から米を運ぶ仕事をしていました。元文元年のことです。

いつものように秋田から米を積んで出航した彼の船は、嵐に遭って米の半分を流してしまいます。船乗りの新七は、残った米を売って大阪へ戻ってきて、「うちの船が難破したことは、どこの港にも知れ渡っているから、この金は米主に返さないで、新しい船をつくるために使いましょう。」と言って、太郎兵衛の前に現金を並べました。

船を失って途方に暮れていた太郎兵衛は、ついその言葉に乗って金を受け取ってしまいます。当時の米は、現在の貨幣と同じ扱いでしたから、米主がお上に訴え出ました。新七はいち早く姿を消してしまい、太郎兵衛だけがお縄になりました。

      
米俵

太郎兵衛の娘、いちの嘆願書

太郎兵衛の家族は、妻と長女のいち(16歳)、次女まつ(14歳)養子の長男長太郎(12歳)、三女とく(8歳)、二男初五郎(6歳)です。

いちは、襖の陰で祖母と母親の話を聞いて、太郎兵衛が死罪になることを知ります。いちは、自分たち子供の命とひきかえに父親の命を助けてほしいとの嘆願書を書くことを思いつきます

夜、姉のいちの気配を察した次女のまつに、「この嘆願書をお奉行様が聞いてくださって、おとっつあんが助かればそれでいい、子供が本当に殺されるのか、私だけ殺されて、小さい者は助かるのかわからない。」と語ります。

いちと兄弟の命乞いが、太郎兵衛を救う

翌朝、いちはまつと、俺も行くと言って起きだしてきた長太郎を連れて奉行所へ出かけました。

嘆願書を受け取った奉行は、字はおぼつかないが、短い文章の中に、伝えたいことがしっかりとまとめて書いてあるのを見て、「本当にお前の一存でこれを書いたのか。」と尋ねられるほど整理された文章だったのです。

いちの文書

いちは、嘆願書は誰かに相談したり教わったものではないときっぱり答えます。更に奉行の尋問は続きます。「お前に聞くが、身代わりが聞き届けられると、お前たちは直ぐ殺されるぞ、それでもいいのか。」と問われます。

いちは、「よろしゅうございます」となぜか冷ややかに答えます。それから少し間をおいて、「お上の事に間違いはございますまいから」と言いました。それを聞いた奉行はひどく驚きます。そして険しい眼差しをいちに注ぎます。奉行の目は徐々に憎悪を帯びてゆきます。

いちのことを、「変な小娘だ」と皆が言います。何かが憑りついているともいわれます。それでも、太郎兵衛は「大嘗会」の開催の恩赦で罪一等を減じられて、死罪から追放減免となります。家族は太郎兵衛と会って別れを言うことができました。

森鴎外、『最後の一句』感想文

この小説の焦点は、いちが奉行に向かって言った、「お上のことに間違いはございますまいから」にあります。

いちが何故この言葉を最後に付け足したのか、それには様々な意味が考えられます。

いちが放った、お上への痛切な皮肉

お上(奉行所或いは行政全般)に対する痛切な皮肉ととらえることができます。米は貨幣と同じでしたから、年貢として藩主に収め、米をつくった者の口にはめったに入らなかった事実があります。

武士は、給料を扶持米として受け取っていました。農民が作り武士が食べるその規範が崩れ始めたのは、商工の発展です。

商売をしているものは日銭が貯まります。大工やものを作る者は、作成した商品を売ってやはり銭を手にします。士農工商と言う身分制度は、貨幣の流通に伴って、一番身分の高い士分の者たちの疲弊を招き入れました。

核心をつく批判

1700年代は江戸初期と言えます。まだ前述したような社会の枠組みが崩れてはいなかったでしょう。

ですから、町民は低く見られ、金を卑しいものと見下す風潮があったと思います。米をつくる百姓は大切にされていたと思いますが、しかし、水飲み百姓は米を供出するだけが精一杯で、自分たちの口が潤うことはなかったのです。

いちが言った最後の言葉は、武士階級に対する痛烈な批判の意味が込められていたのではないかと思われます。奉行が驚愕したのは、言葉の意味を額面通りに受け取った故と思われます。

罪の重さ、時代を越えるお金と心の考え方

罪を犯した者が裁かれるのは当たり前ですが、米の横流しで死刑、というのは刑が重すぎるのではないかということです。

しかし、米は国家の基盤をなすものだったので、当時としては当たり前の刑だったのかもしれません。一両盗めば首が飛ぶ、という時代でしたから、太郎兵衛が受けた死罪は当然のことだったのかもしれません。

金に目がくらむのは、いつの時代も同じです。船乗りの甘言にのった太郎兵衛の弱さが招いた悲劇だったともいえます。大勢の家族を抱えた男の揺れる心が哀れに思えます。

米と小判

いちの強さについて考える

いちの強さはどこから来たのでしょう。

縦系社会の中で育った者は、上から下へ情愛を注ぐことは、当然だと教えられていたことでしょう。長女としての立場を全うしようとしたいちの強さには感動します。

しかも、養子の長太郎の命だけはお助け下さい、と言っています。

桂屋には男子が二人います。一人は養子です。男子が生まれないと家系が途絶えると言う考えが根強かった時代です。初めに女子が生まれ、次はどうしても男子とおもっていたのに、次女のまつが生まれました。そこで養子を迎えたのではないかと察します。

その後男子が生まれましたが、長男は養子の長太郎なのです。いちはそのけじめをきちんと守り、家を継ぐべき者の命乞いをしたのです。いちの強さは、長女としての在り方を遂行するために生れたものだと確信します。

大勢の兄弟の上に立つ者として、父親と長男の命乞いをしたいちの気概は、役人たちを圧倒し、自分たちは役目を全うしているだろうか、という疑問を抱かせたのだと思います。いちの心の中にも、お上に対する不信感があったのだと思います。健気で一途ないちの思いに敬意を表します。

まとめ

森鴎外『最後の一句』、背景や状況は現在とは全然違いますが、その根底に流れる「人としての強さ」や「大切にすべきこと」「けじめをつけるべき点」について考えるのには最適な作品だと思います。

大変な出来事が起きてしまうと、大きな視点でものが見えなくなり、目の前のお金に目がくらんでしまう点なども、人間としてリアリティが溢れていて学びがありますね。

十分に時間のある夏休み、普段は読まないような古典作品などに触れるのもよいのではないでしょうか。

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