今回ご紹介する『ジェーン・エア』という作品は、作者であるブロンテ三姉妹が、父親の看病をしている合間を縫って書かれたと言われています。
イギリス文学界に、燦然と輝く名著を残したブロンテ三姉妹は、素晴らしい才能に恵まれながら、若くしてこの世を去りました。もっとも長く生きたとされるシャーロットでさえ、38歳という若さでこの世を去りました。他の2人は29歳、30歳で亡くなっています。
1847年に出版された、この作品は大ベストセラーとなりました。当時女性がものを書くことが抑圧されていたため、彼女たちは男性名でこの本を出版しました。今なお色あせない名作『ジェーン・エア』を紐解いてみたいと思います。
シャーロット・ブロンテ『ジェーン・エア』あらすじ
この本は、ジェーン・エアという名の女性を主人公とした物語です。
ジェーン・エア、寄宿学校へ
幼くして両親を亡くしたジェーン・エアは、伯父であるリード家に引き取られます。しかし、リード氏が亡くなってしまうと、その夫人や従兄弟たちに邪魔者扱いされ、10歳のときローウッド寄宿学校へ預けられます。
彼女はここで、心を許せる友、ヘレン・バーズンや愛情豊かなテンプル先生に出会います。
その寄宿学校の環境は劣悪で、チフスが流行ります。多くの生徒が命を落としました。ジェーンの友人のヘレンもその一人でした。愛する人の死に大きな衝撃を受けたジェーンを慰めてくれたのは、心優しきテンプル先生でした。
この学校で、ジェーンは6年間を生徒として過ごし、その後2年間を教師として過ごしました。成長した彼女は、テンプル先生の結婚を機に自立することを決意します。
家庭教師となるジェーン・エア
新聞に出した広告が元で、家庭教師としてソーンフィールド屋敷へ行くことになります。彼女は18歳になっていました。
館の主人である、ロチェスターは留守でしたが、家政婦のフェアファックス夫人が出迎えてくれました。二人はすぐ打ち解けて親しくなりました。
ジェーンが教えるのは、ロチェスターの養女の愛らしいアデルです。何もかもうまくいっていましたが、ジェーンが一抹の不安を覚えたのは、館の一室から聞こえてくる奇妙な笑い声でした。フェアファックス夫人に聞くと、狂った老女グレイス・プールの声だと知らされます。
アデルの家庭教師として過ごし始めて3か月が経過したとき、初めて館の主であるロチェスターと会います。彼は気まぐれで、きつい口調で物を言う、いかつい顔をした男性でした。
しかし、一緒に暮らし始めてみると、彼のそんな容貌の中に、暖かな心が眠っていることにジェーンは気付きます。一方、ロチェスターも、虚飾にまみれた貴婦人たちにはない、ジェーンの聡明さと豊かな教養に新鮮な驚きを感じます。
信じられない、衝撃の真実が
グレイス・プールがロチェスターの部屋に放火し、ジェーンがそれを発見してロチェスターの命を救ったのを機に、二人は親密になってゆきます。そして、ジェーンはロチェスターからのプロポーズを承諾して二人は結婚しようとするのですが、結婚式のその場で驚くべき事実が判明します。
ロチェスターには妻がいて、発狂したので館の一室に幽閉され、グレイス・プールがその面倒をみていたことがわかります。夜ごと聞こえた奇妙な笑い声や放火は、狂った妻バーサの仕業だったのです。
潰れそうな心を押し隠し、ジェーンは身一つで館を去ります。
ジェーン・エア、女学校へ
力尽きて倒れそうになったジェーンを救ったのは、牧師のセント・ジョン・リヴァーゼンと妹たちでした。
深く傷ついたジェーンを、姉妹は優しく接し癒してくれました。彼女たちは、ジェーンにモートン女学校の教師の職を見つけてくれました。その学校で働くうちに、傷ついたジェーンの心も和らぎます。
ジェーン・エアに訪れた、幸せな日々
ある日、ジェーンの元に、父方の叔父ジョン・エアが亡くなり、2万ポンドの遺産を彼女が相続することになったという手紙が届きます。
調べると、セント・ジョンと彼の妹たちが、ジェーンの父方の従兄弟であることがわかります。ジェーンは遺産を4等分にして、3人にそれぞれ分け与えます。
このようにして財産を持ったジェーンは、3人の従兄弟たちと暮らし、幸せな日々を送り始めます。
純粋な愛か、否か
セント・ジョンは、インドへの伝導に旅立つことになり、ジェーンに妻として一緒に行ってほしいと言います。
ジェーンは彼に感謝と親愛の情を抱いていましたが、セント・ジョンが自分に望んでいるのは、純粋な愛ではなく、ジェーンの知性と献身的な性格だと悟った彼女は申し出を拒否します。
ロチェスターとの日々を再び
その時、ジェーンの耳に助けを求める声が聞こえます。
不安を覚えたジェーンはソーンフィールドへ向かいます。着いてみると、ソーンフィールド屋敷は廃墟となっていました。
近くの住人から話を聞くと、バーサの放火で屋敷は崩れ落ち、バーサはその火事で亡くなり、ロチェスターは失明し左腕を失っていました。
自らの意志で彼の元へやってきたジェーンは、ロチェスターと一生を共にすることを決意し、ジェーンの出現で生きる希望を取り戻したロチェスターは結婚を申し込みます。その後二人は子供をもうけ幸せに暮らします。
ジェーン・エアを読んで思う事
この小説が発表されたのは、1847年ヴィクトリア朝時代です。
架空の小説にもかかわらず、当時の社会が色濃く反映され、一人の女性の目を通して見えてくる、当時のイギリス社会が抱える問題も見え隠れしていたので、ヴィクトリア女王など多くの人々に読まれ、第一級の名作となりました。
男社会の中で貫いた、筆者の思い
この作品が生まれた時代は、完全な男社会で、女性が小説を書くことなどありえないことでした。自己主張もままならなかった時代に、男性名で書かれていながら、小説は「私」という一人称を用いて明らかに女性の視線で見た事柄が書かれています。
そこに作者の意図を感じます。女性が自らの意思を男性に伝える、その断固たる精神が、世の読者を釘付けにしたのだと思います。
イギリス文学の特徴
孤児になったジェーンが預けられたのは伯父さんの家でした。そこでジエーンは伯母とその子供たちから酷い扱いを受けます。しかし、彼女は健気に耐えて自己を見失うことはありませんでした。
このようなストーリーは、イギリス文学には多くみられます。新しいところでは、ハリーポッターがそうです。主人公は邪魔者扱いされていた家から、魔法を使って出てゆきます。壁に通路ができて、主人公は別世界へと旅立ちます。
このような展開は、「小公子」「小公女」と言った小説にも見受けられます。
最低の生活をしていた者が、やがて救われ大きな幸せを手に入れる、そしてどの主人公も、健気で信心深く思いやりのある人物としてえがかれています。
多くの経験を経て、自分自身の受け止め方が変わった
この手の作品を、未熟な頃に読んだときは、「貧しさに耐えて真面目に生きていれば、必ず神様はお救いくださる」という具合に、妙に教訓めいていてあまり好きなれませんでした。
しかし、社会人になって、いくつもの不合理や矛盾を潜り抜けてから読んだときは、何故か清々しさを味わいました。多くの時間と経験が、自分自身に意識の変化をもたらしたのでしょうね。
ジェーンの在り方について考える
苦難の連続だったジェーンは、思ってもいなかった財産を手にします。それを彼女は一人占めせずに、孤児として過ごしてきた自分にも親族がいたことを知って、彼らにも財産を分け与えます。その下りを読んだとき、こういう状況下で、果たして自分も同じ行動がとれるだろうか、と自問自答しました。
さらに、ジェーンは二人の男性からプロポーズを受けます。一人は神に仕える牧師であり、もう一人は火事で何もかも失い、身体が不自由になった男性です。
彼女はこれに対しても、自分の生き方を貫く強固な意志と深い道徳心から結論を導き出します。こういう姿勢が読者の共感を呼んだことは間違いないと思われます。
男性の従属でしかなかった女性への、新しいメッセージとして、この小説は時代を取り込んで、更にその先への憧れを与えたのではないでしょうか。
シャーロット・ブロンテ『ジェーン・エア』まとめ
決して美人ではないジェーンが、自己の意思を貫き通して、最後に暖かな家庭を手に入れる、このサクセスストーリーは、現在の若者が読んでも、違和感がないと信じます。
「自分の信じるところを、志を高く掲げて突き進めば、必ず最良の場にたどりつける」という、この本の主題を読み取りました。
決して諦めることなく、人生最後の瞬間まで「最良の未来」をイメージしつつ、自分の中の軸を育てていきたいと思いますね。
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